立ち退きで事実認定2通り
「一審判決を引用した『継ぎはぎ判決』は避けるべきだ」。最高裁第一小法廷が19日に言い渡した土地の借地権などをめぐる訴訟の上告審判決で、泉徳治裁判長が二審の高松高裁の判決の書き方に苦言を呈する異例の補足意見を付けました。この判決について解説します。
原判決(一審判決)の引用はNG
裁判官の間でも「分かりにくい」
二審判決は「次の通り改めるほかは、原判決(一審判決)を引用する」などと省略することが多い。しかし、判決だけ見ても内容が理解できず、裁判官の間でも「分かりにくい」と指摘する声が多かった。
借地借家法に基づき立ち退きを命じる
判決があったのは、松山市内の土地を競売で購入した会社が、土地上の家屋に住む女性に明け渡しを求めた訴訟。建物が登記されていれば、借地借家法の規定で立ち退きを拒めるが、一審の松山地裁は「女性が所有しているが、登記されていなかった」として明け渡しを命じた。
建物の所有権が同じ判決で2通り
高松高裁もこれを認めたが、問題の建物については「女性の子などが相続で所有権を取得した」と追加したため、建物の所有権が同じ判決で2通りあることになった。こうした理由で最高裁は二審判決を破棄し、高松高裁に審理を差し戻した。
「矛盾した認定」
泉裁判長は「継ぎはぎ的引用は矛盾した認定や要件の欠落を招く。国民に分かりやすい裁判の観点から決して望ましくない」と批判した。
読みづらい
継ぎはぎ判決は1970年代に始まり、訴訟数の増加から1980年代に一般化。裁判官からは「(判決文を書く)負担を減らせる」という利点と、「読みづらい」という欠点が挙げられている。
わが国の司法試験の合格率の低さと合格者の高年齢化は試験の改革問題として種々論議されているが、それだけ難しい試験に合格した弁護士の非行多発がよく報じられ、時には公職の破産管財人や弁護士会要職(経験)者から非行者が出て、誠に恥ずかしい思いをすることがある。
この不祥事を防ぎ、かつ法曹をめぐる社会状況の変化に対応すべく、弁護士倫理綱領の改定作業がここ10年余も進められ、やっと1990年3月2日の日弁連大会で決議された。非行多発の折に、何で改定にこんなに時間を要するのかと、世論の批判も見受けられたが、時間をかけながら、重要な問題について新綱領が看過している点があれば、黙視出来ない。
その1つに弁護士報酬の問題がある。弁護士の綱紀案件として多いのも報酬をめぐる問題である。横領のごときは論外としても、弁護士が依頼者よりも自分の利益を優先させて、著しく社会的妥当性を欠き、依頼者や世間を納得させ得ない法外な報酬を請求したといった例が、時に、新聞に報じられている。
しかし、綱領では、抽象的に「その報酬の金額又は算定方法を明示するように努めなければならない」「事案の実情に応じ適正・妥当な報酬を定めなければならない」と規定するだけで、なにが適正・妥当かの基準を示していない。さらに、算定方法である弁護士報酬規程に欠陥があるとすれば、黙視すべきではない。
弁護士報酬規程の小部分の改正は次の定期大会への上程が予定されているものの、以下の根本問題を指摘しておきたい。弁護士報酬はわれわれの存在意義と倫理に深く関連し、依頼者である国民にも直接、利害関係がある問題だからである。
まず、弁護士報酬の基準については、難しい問題もあり、規程は何回か改定されたにもかかわらず、基準として不明朗・不合理である。
問題と思われるのは、同一目的物・同一係争利益に関し、同一の目的達成のために数個の手続きを行う場合(例えば、1つの事案で本訴訟を1審、2審と行い、その他仮差し押さえや執行の手続きを行う)、各審級・各手続きのたびに、それぞれ、係争利益に対する所定割合の手数料と謝金を受けることが出来るとしていることである。
依頼者は目的物や利益が1つである限りは、こんな方法で請求を受けるとか、規程がそれを許しているとは思っておらず、とうてい納得出来ないところであろう。当然、依頼者が得られる利益に比して、報酬が過大となり、弁護士に頼んだ意味がなくなる。もちろん、良心ある弁護士なら、規程を盾に、依頼者から二重・三重に暴利的報酬を取っているとは思わないが、“弁護士から食い物にされた”といった訴えには、この類のものが少なくない。社会正義以前の問題とさえ思われるが、報酬規程で合法とされているから懲戒不相当とした例もある、と聞く。これで弁護士が国民から信頼されるだろうか。
係争目的が同一である限りは、係争利益に対する割合による報酬は、主要手続きに限り、同一目的達成への手続きに関しては、時間・労働に従い相応な加算をするのが適当で、二重・三重に利益割合による報酬取得を認めるべきではない。
その他、事件処理に多額の着手金が前払いされたのに、予想に反して略式とか欠席裁判で簡単に終結した場合、精算されないとか、成功として更に請求されたとかの問題等、多々ある。
報酬(経済)と倫理とは密接不可分である。せっかくの綱領改定なら、倫理規定の具体化とともに、国民にわかりやすい報酬規程の基本的検討を看過すべきでないと思う。